朝、メールをチェックしていたら、歯になにか挟まってるような感じがして、思いっきり引っ張り出したら、詰め物でした。力任せにしなきゃ取れなかったのに!ただでさえ、空が白むのが8時頃になってきていて、気がめいるのに、朝からこれだ。気分に任せて、ダウンしていてもしょうがないので、幸い天気も良いし、午後いちで、川の方まで風のリサーチに出る事にしました。
オランダは良く風が吹きます。そりゃ、風車も建てるよね、と納得の強風が吹きます。あんなでかいもの、今みたいに、摩擦係数下げるような部品もないころから、グルグル回っている国ですから。北海道と同じくらいの気候、とよく言いますが、風がある方が寒いに決まってます。ロンドンもそうでした。山がまったく無いから、北風は北海から直接吹き付けます。そして、オランダ人もイギリス人も、山を見たがって、スイス人は海を見たがるのです。こちらに来て、作品のプランを練るにあたって、自分の中からいろいろ出てきた、キーワードや要素のひとつに、風がありました。普段、あんまり自然には惹かれません。自然には畏怖心があるので、とりたてて取り上げる気持ちにならないのかもしれません。だから、風に惹かれていることを精査する必要がありました。実際には、風そのものではなくて、人に働きかけるもののメタファーとして、意味を見ているのではないか、ということは分かって来ていましたが、もう少し掘り下げが足りない気がしていました。作品の最終形が決まるまでの間に、実現と天秤にかけて、取捨選択する場面が、幾度と無く来るので、根っこをしっかりしていないと、途中で分からなくなります。根っこが決まってれば、上物など、どうとでもなる、とも言えます。こういう説明をしておかないと、自転車でぶらぶらしてるだけみたいに見えるでしょ?
自転車は自転車専用道路を通ります。無ければ車道。信号も自転車用です。目的地はエラスムス橋を南に越えてすぐの、川に突き出したところの先っぽです。Makiさんと風の話をしたときに、そこは風が強くて、今度そこにEdwinが風に関係した作品を作ると教えてくれたので、きっと見に行こうと思っていたのです。
天気が良いので風は吹いていないかと思いましたが、気持ちよく吹いていました。風の強い日にリサーチするのが本当な気もしますが、やっぱり、強調されてない状態を見ないと、って風だと自転車進まないから、とも言いますが。川っぷちを自転車に乗ったり押したりしながら、休み休み散歩しました。ながめも良く、散歩には絶好のロケーションです。アイデアが、ばっちりまとまったかというと、そんなに簡単にいくもんか。
先っぽにはアメリカホテルがありました。有名らしいです。みんな同じ方を見ているので、なにごとかと思ったら、エラスムス橋が上がっていました。大きな貨物船は平べったいので、橋を上げなくても下を通っていきます。30分くらい見ていただけでも、たくさん通りました。ちいさくて、マストが高い船を通しているようでした。結構交通量が多い橋なのに、車をたくさん待たせて、(遠目だから)ちいさな船が通過するさまは愉快でした。
せっかくなので、エラスムス橋の向こうにある島にも寄る事にしました。Nicoのプリントショップに行ったときにエラスムス橋の写真があって、そこの島から見る風景が良いということと、そこには良い魚屋だか魚レストランだかがあると言っていたのを、うまいこと思い出したからです。ぐるっとひとまわりして見ましたが、魚屋は見つかりませんでした。でも、島の橋寄りには、ネオン管屋、照明機材屋、建築事務所など、クリエイティブ系の店やオフィスが点在していたので、寄ったかいもありました。風景は逆光でいいんだか、わるいんだか、さっぱり見えませんでした。壁が斜めになったビルと、橋がいっぺんに見られるから、良いってことでしょう。
もうひとつの大きな橋、赤いウィレムス橋を渡って、ちいさな橋を渡ると、キューブハウスの裏に出ます。ちいさな橋のすぐ横には、鉄骨橋が上がったままになっていました。古そうです。川と船を上手く共存させるために、よくもいろんな方法を考えたものです。
いったん帰って、夕方からHet Wilde Wetenのオープニングパーティに行きました。日本から連絡を取っていたアーチスト・イン・レジデンスのひとつです。今日こそは空手に行こうと固く決心していたのですが、Nicが今日こんなオープニングがあるよ、とくれたインフォメーションが、一度訪れたいと思っていたレジデンスだったので、あっけなく、空手はまた来週になりました。優先順位は美術の方が空手より上です、念のため。インフォメーションには、今日はドイツ人アーチストのオープニングなので、ミニ・オクトーバーフェストをやる、と書いてあるではありませんか、あのドイツのビール祭りです。たべものにありつく為には、6時のオープンに来るべし、と書いてあるので、そそくさと6時に着く様に行きました。6時を少し過ぎて着いてみると、ドアには鍵がかかっていて、始まってませんでした。何回ひっかかってんだ。でも、私の中の日本人が時間を守れと言うんです。ノックをして入れてもらいましたが、スタッフは忙しそうです。とりあえず、作品を見ました。テキストベース、しかも基礎知識が必要な感じだったので、途中まで読んだけれど、あきらめました。雑誌の記事かなんかで、すごく長いの、A4で5枚以上あったんじゃないかな。しかもそれ読まないと、ビデオ作品もわからない。もどってみると、まだスタッフは忙しそうでしたが、メールで行くと伝えてあったスタッフを探そうと、話しかけると、とても親切な人でした。私が探している人はまだ来ていませんでしたが、仕事の手を止めていろいろ説明してくれました。手を止めさせているのも悪いので、ひとりでぶらぶらしていると、今度は、別のひとりで来ていた人をあてがってくれました。気が利くなぁ。ここのレジデンス、好印象です。展示スペースも悪く無かったし、立地も良いです。ただ、ゲストアーチストはひとりづつしかとらないそう。他にもゲストいた方が、ネットワークが広がる可能性は高いので、それが、ちょっと気になるといえば気になるかな。でも、行きたいレジデンスリスト入りです。
紹介されたのはBadに滞在中のドイツ人、Rona。明日からのオープンスタジオの準備でBadからは誰も来られなかったけれど、彼女はスタジオを見せないので、ひとりで来たとの事でした。作品のテーマが港なので、この日も、アポイントをとってあって、夜の港を撮りに行くと言っていました。その前に寄ってみたようです。話好きな人のようで、いろいろと楽しく話させてもらいました。港のリサーチと撮影の足場として滞在しているので、1ヶ月しかいないとか、ドイツの家から車3時間で来られるといったお互いのことや、その日の展示についてなど。車で3時間ってうちからだと、北海道すら出られません。ヨーロッパって想像以上に1つの国が狭い。展示はどこかの町を題材にしていて、言語は英語でした。言語ベースの作品だったので、話題は主に言語ベースで作品をつくるということについて。Ronaの話で、私はドイツ人だから、内容も知っていることだし、と言っていたので、題材はドイツの話なのかもしれません。すごく、繊細な内容を扱っているように思えたけれど、ドイツでドイツ語で発表すればいいんじゃないの。最後まで読まなくて、何の話だか分からなかったのに、こんなこと言うのはなんですけどね。
ミニ・オクトーバーフェストは本当にミニでした。長机ひとつぶん。でもおいしかったです。じゃがいもを中心にしたホットサラダ、キャベツの煮たの、ジャーマンソーセージ、パン。サラダといっても、野菜炒めみたいで、全部おいしくいただきました。でも、ソーセージ以外、ちっともドイツじゃない、とドイツ人が言っていました。Kausのパーティですしを作った話をしたところ、ドイツ人もオランダ人も「すし!」と目を輝かせていました。まただよ、アートがすしを越える日は来るのか…。アポイントがあったRonaが行ってしまって、また話相手もいなくなったので、予定していたスタッフには会えませんでしたが、また来る事にして、さよならを言いました。